理事長のコトノハ ■ Vol.17

ここだけの話11月

芝居がハネて、メッキリ、お客がいなくなった徳之島文化会館。
その前を流れる小さな川の向こうに、小さなライブハウスがある。
島民劇“島の夫婦”が終わって、出演者、裏方スタッフみんな、そこへ集合した。
さあ〜!打ち上げだ。

譲り合って立てば、なんとか80人は入るスペース。
その向こうに、小さなステージ。
その中央には、立派なドラムセット。
その前に、ボーカルマイク。
綺麗な照明が入っている。

実は、このステージから、日本一のオヤジバンドと日本一の島唄の歌い手が誕生している。
今回、その日本一のオヤジバンドのリードギターのオヤジと、日本一の島唄の若き女性唄者が、島民劇に出演してくれた。
素晴らしいギターと三線の音色。
澄み渡る裏声。
それをバックに、徳之島高校のコーラス部が歌った。
流石。芸どころ、徳之島。

ちなみにこの作品のモチーフソングは、中島みゆきさんの“糸”。
この歌の最後に使われている歌詞“仕合わせ”が、この島民劇のキーワード。

先ほどから、そのライブハウスでは、大人はガンガン酒を飲み、小学生と高校生もまた、ガンガン料理を食べている。
そんな中、小学生が、高校生が、ボーカルマイクを片手に、スポットライトを浴びながら、島民劇のコメントを述べる。その姿は、スターそのものだった。
但し、ここだけの話。
明日は、もちろん、授業がある。
この大らかな情景に度肝をぬかれながら、ぼくもまた、味噌ピーナッツで黒糖焼酎を楽しんだ。

てな具合だから、島民劇の観客席が応援席に化学変化をとげる時間は、いらなかった。
ファーストシーンから、舞台に役者が登場すると、拍手が起き、掛け声がかかる。
勝手に、ぼくの演出意図とは無関係に、芝居はどんどん、盛り上がっていく。

劇の中盤。
闘牛シーンのワイド節には、手拍子どころか、指笛までなりだしていた。
もう、客席は制御不能。
ワイド節は、島民みんなが愛してやまない愛唱歌。きっと、徳之島が独立国になったら、間違えなくこのワイド節が、国歌になるだろう。
だいたい学校で、わざわざ教えないと憶えられない曲を、国歌にしている国なんてクレイジーだと思いませんか?

クライマックスシーン。15歳の娘・まさみが、島を出る。いよいよ両親との別れ。
ぼくの予定では“ここで、ほとんどの観客は泣く”と、なっていた。
ところが、観客の手は、涙を拭うこともなく、拍手を鳴らした。
そして、観客は舞台の主人公に叫ぶ。
“まさみ、きばれ!”
徳之島の人たちは、近所の子が島を出るとき、こうやって見送るそうだ。
またしても、演出意図は外れた。

ラストシーン。
徳之島高校のコーラス部が、“糸”を歌う。素晴らしい伴奏にのって。実にイイ感じ。
そしたら、いつの間にか、客席も歌っていた。
指導されているタケダ先生が、涙をそっと、拭った。

タケダ先生は、今、ボーカルマイクも持って、ライブハウスのステージにいる。
そして、こんなことを喋っている。
“思いがけず、客席も“糸”歌ってくれて、わたし、仕合わせです”
ぼくの意図とは違う“糸”だったが…
タケダ先生がおっしゃる通り、ぼくも、メッキリ、仕合わせになった。

やっぱり、なんでも演出通りいかない方が、おもしろい。

篠崎省吾

写真:“かごしま子ども芸術センター 入本敏也さん撮影写真:“かごしま子ども芸術センター 入本敏也さん撮影
写真:西雅子(劇団道化)撮影写真:西雅子(劇団道化)撮影