理事長のコトノハ ■ Vol.9

重慶に着いた日の土真夜中

近所に雷が落ちた。

その夜は、蒼いイナズマが閃き、雷鳴が轟きっ放しだった。

小心者のぼくは、夜中、何回も何回も目が醒めてしまった。

そしてその翌日。
ホテルのそばに、真っ二つに裂けて崩れ落ちてな大きな木があった。

まるで今の日中関係を暗示しているようだ。

ここだけの話。

今回は、ヤバかった。
出発直前に、主催者の重慶市教育委員会から「主催できなくなった」の連絡があった。
寝耳に水。

これまで、ちまたで言われている日中関係の悪化とは反比例するかのように、日中文化交流の順風満帆ぶりに有頂天になっていた頃、突然、蒼いイナズマがぼくをせめてきた。
そんな感じだ。

これまでも真面目に心配してくださる日本人の皆様がいらっしゃったが…、

木で鼻をくくった態度で接してしまっていた。

そのことに、雷が落ちたのかもしれない。

この場を借りて、深くお詫びいたしたい。

しかし、真底ヤバイ。
飛行機会社と飲料会社とスポンサー契約を結び、外郭団体からの助成も内定をいただいていた。
ぼくらは、完全に顔面蒼白になった。

飛行機のチケットも、宿代も、協賛金もいただいているのに…、
公演に行く小学校がなくなってしまったのだから…。

これでは「シノザキ」ではなく「シノ詐欺」になってしまう。ヤバイ

そしたら、猛然と重慶市に雷を落とした人がいた。
「何をやっとるのか!重慶人は!」
その怒りの轟きは、一昨夜の雷鳴を遥かに凌ぐ。
その雷の主は、重慶生まれの中国人朱さん。

福岡に「大明火鍋城」という、大繁盛している四川料理屋(重慶は四川省の元・州都)さんを営んでいらっしゃる。
朱さんは福岡から、イナズマより早く重慶にスッ飛んで行ってくれた。
そして「重慶市海外交流部(日本でいうと国際交流部)の主催で開催する」と、約束を取り付けて下さった。

重慶市海外交流部の皆さんは、重慶市内の富裕層の通う私立の幼稚園・小学校に声をかけてくださった。
そして、みるみるうちに、公演スケジュールが埋まっていった。

それから、重慶市在住の日本人の方々がものすごく応援して下さった。

ちなみに重慶在住の日本人340人(重慶市の人口3300万人。ちなみに上海は人口2400万人に対して日本人7万人)

日曜は、劇団道化の日本語公演(普段は中国語で演じている)を開催して下さった。
会場のレストランは100名を越える日本人親子と、日本語を学ぶ中国人学生で溢れた。
総領事夫妻も応援に駆けつけて下さった。
俳優と子どもたちは日本語で、楽しく掛け合っていた。

そして、それを観ながら、日本人の大人も中国人の学生も笑ってくれた。

さっきまで、その日本語公演でお世話になった方と、重慶名物の山椒のたっぷり入った真っ赤スープが煮えたぎった海鮮鍋を食べていた。

相変わらず、山椒の薫りが目にしみる。

後日、日本人の方からのメールにこう書いてあった。

「娘と息子のハシャいで楽しそうな姿を見れて幸せでした」

先日の海鮮鍋のよっぽど目にしみたのか…。

ぼくの目と顔色は、スープのように真っ赤になった。

やっぱり、顔色はイナズマの色より、こちらの海鮮鍋の色の方がイイ。

ちょうどその頃、真っ二つに裂けて崩れ落ちている大きな木は撤去されていた。

そして、日本語公演にご尽力いただいたご夫妻が、洗い立ての舞台衣装と、あんパンを持って来て下さった。

何か、幸せ。

よし、今日もきっとイイ日になるぞ。

がんばうろっと。

劇団道化 理事長 篠崎省吾